「事例紹介② 官民連携とICT」 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室・シェアリングエコノミー促進室 企画官 髙田裕介氏


これまで様々なコレクティブ・インパクト(髙田氏の言葉で言い換えると「官民連携」)の事例に携わってきた髙田氏。

中でも多くの教訓が得られたという岡山県岡山市での事例を交えつつ、官民連携の現状や展望、押さえておくべき事柄などをお話ししていただきました。


《登壇者プロフィール》

​内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室・シェアリングエコノミー促進室

企画官 髙田 裕介氏

1978年生まれ。東京都立大学法学部卒。2000年4月旧郵政省(現総務省)入省。主に地域におけるICTインフラの整備や利活用の推進を担当。また、出向経験(岡山市役所、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部事務局など)を通じ、コミュニティとの協働や文化・スポーツを通じた地域づくりに従事。平成29年7月から現職に着任し、シェアリングエコノミーの推進に向けた政府部内の総合調整を担当。


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国政から見た官民連携の重要性

皆さんこんばんは、内閣官房で企画官をしております、髙田と申します。

今日はこれまで私が携わった官民連携の中でどのような苦労があって、それが今の政策立案にどうつながっているか、ということを皆さんと共有できればと思っています。


まずは自己紹介させていただきます。

私は2000年に旧郵政省(現総務省)に入省し、主に情報通信を活用した地域活性化の分野に携わっております。また中央官庁の仕事だけでなく、出向を通して2020年東京オリンピックの事前キャンプ誘致の仕事や、岡山県の岡山市役所でICTを活用した地域づくりの仕事などにも携わらせていただきました。


​上の図の右下にうつっているのが岡山市に出向の際に手掛けた仕事の一つです。電子町内会というコミュニティサイトを運営し、住民の方々の情報発信や情報共有のお手伝いをするというもので、当時は画期的な取り組みとして話題にもなりました。


さて、本日の主題である官民連携の話に移ります。なぜ今、官民連携がこれだけ取り上げられ、活発化してきたのでしょうか。大きな理由のひとつとして国・自治体共に使える行政リソースが著しく減ってきているということが挙げられます。

例えば、地方公務員の場合、平成6年をピークにして平成28年までの22年間で職員はずっと減り続けていて、国もほとんど同じような傾向です。その一方で取り扱う仕事も減ったかと言うとそんなことはなくて、価値観の多様化や社会の複雑化に伴ってやらなければならない課題は凄く増えています。

そうなると、とてもじゃないけれども行政だけで課題を解決する事が出来ません。そこで色々な方のお知恵を借りながら仕事をしていこう、これが官民連携の活発化につながっていると思います。

この6月に閣議決定された「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)」でも今年初めてコレクティブ・インパクトが書き込まれました。この一事をもってしても、我々の問題意識の大きさを分かっていただけるのではないかと思います。



岡山県岡山市での事例

ここから自分の経験についてお話しさせていただきます。

先ほども触れましたが、私は2006年4月から2008年3月までの2年間、岡山県岡山市役所に出向し電子町内会というコミュニティサイトの運営に携わっていました。当時の私の野望は、このサイトを町内会以外の団体、例えば婦人会や老人会、子どもの預かりをしているNPOの方々といったまちづくりプレイヤー全体に拡充したいということでした。

そこで、総務省の補助金プロジェクトを活用し、地場の2大企業にもご協力いただき、当時普及し始めていたSNSをベースに、新たな「まちづくりサイト」を2007年に立ち上げるに至りました。


ところが、残念なことに、そのサイトは、5年後の2012年に閉鎖され、現在は存在しません。なぜそうなってしまったのか、改めて分析をしてみると以下の原因が見えてきました。


​●「言い出しっぺ」である行政の負担が大きくなってしまった

「お客さん意識」という言葉は、プロジェクトの参画された方々の視線が、行政に集中しすぎたと言い換えてもいいと思います。

たとえば、他の地域にこのサイトを宣伝しに行く際も、しばしば行政の立ち合いを求められました。運営を共にする民間企業様の中にはプレゼンテーションが上手い方もいらっしゃるので営業をお願いしたのですが、住民の方からは、「なんで行政が来ないんだ」とお叱りを受けることがありました。

これは裏を返せば行政への信頼が厚いということなのですが、言い換えれば、我々がステイクホルダーの当事者意識を引き出す仕掛けをうまく作れなかったのではないかと悔やみが残るところであります。


●説明コストと調整コストがかかりすぎた

新しい事を導入する際には各所への調整と説明が不可欠です。

前向きな調整、つまりそれをクリアすれば前進が見込める調整であればまだいいのですが、「調整先に関する調整」や「念のため行う調整」などが山積し、日がな一日時間を切り売りして終わってしまった事も多かったと反省しています。

そして、調整以上に大変なのが説明というステップです。調整というステップは、やりようによっては回避することも可能ですが、説明というステップに関しては、「何をするか」が分からないと話が始まりませんから、調整以上に労力を割きました。

特に、当時は、SNSというサービスが出たばかりで「そもそもSNSってなんだ」というところから説明が必要でした。それで理解を頂ければ問題ないのですが、「やっぱりわからない」「わかったけど協力できない」という人もやはり一定数いらっしゃって、やがてプロジェクトメンバーは説明疲れに陥ってしまいました


●SNSというツール自体が未成熟だったのではないか

先ほどお話しした通り、このプロジェクトの原点である電子町内会は、2006年当時すでに一定の普及率に達していました。これは、ネットを通じて、町内の顔見知り同士の交流や協力を促すというところにITが力を発揮したからです。いわばリアルの関係を補完するツールとしてSNSを活用した例と言えるでしょう。

他方、ネットを介して、知らない人同士が新しい交流や協力関係を築くツールとしては、SNSはまだ未成熟な段階だったのだと思います。見知った町内会メンバーをつなぐということと見知らぬメンバー同士をつなぐということの懸隔を見抜けなかったのはわが身の未熟さでした。


ITの成熟とシェアリングエコノミーの活発化

ただ、”ツールの未熟さ”という点は現在やや局面が変わってきているように感じています。

私は今、内閣官房でシェアリングエコノミー(以下、シェアエコ)を担当していますが、シェアエコが活発化してきた理由としてSNSというツールの成熟があると感じています。ユーザーレビューなどを通じてネットの向こう側にいる人の確からしさが分かるようになってきたことは大きな変化で、これにより見知らぬ人同士でもSNSツールをうまく使えば色々な取引コストを極小化できるようになりました。

結果として、ニッチな要望がマーケットプレイスに流通するようになり、これまで細々として手間がかかりすぎていたニーズがマッチングビジネスの対象になってきたのです。


このことは思わぬ別の展開を生んでいます。行政や地域のつながりで行われていた慈善や福祉サービスをビジネスに転換できる可能性が見えてきたのです。

例えば徳島県徳島市では阿波踊りが開催される時期だけ宿泊施設が足りないという問題を抱えていました。しかし足りないのはこの時期だけなので新しく施設を建設する事は難しい。そこで民泊というシェアエコのサービスを活用することで、瞬間的に急増する宿泊需要を吸収し、問題を解決しました。

このように技術そして人の意識両面の成熟によりITが官民連携ツールとしてようやく機能してきた、今はこういう局面かなと思っています。


また、シェアエコが進んでいくことでサービス提供モデルも変化していく気がしています。

​これまでの提供モデルは行政と住民が一対一という関係性でしたが、今後は行政から民間に委託していた仕事などをシェアリングのプラットフォームを使うことで、官でもない民でもない第二の公共としての役割を果たしていけ可能性があるのではないかと思っています。



シェアエコの取り組みにおける教訓

最後に、シェアエコを進めていく中で苦労していることを3つお話しいたします。今日は苦労話ばかりで申し訳ないのですが、これからコレクティブ・インパクトを広める中で皆さんが直面しやすい課題だと思いますのでぜひ知っていただきたいと思います。


1つ目は、いかに卓抜なアイデアであっても、理解が難しいものは普及しづらい(先に担当者が説明疲れを起こす)ということです。

岡山の「SNS」もそうでしたがシェアエコも同じで、概念を説明すること自体が難しいものは普及しづらいと感じています。


そこで2つ目になりますが、こうしたプロジェクトについて多くの関係者の理解を得るためには、コンセプトを雄弁で平明に語る「最初の一例」を創出できるかどうかがカギになります。

実際に地域で事例構築に携わった方からは、「それによって何がどう変わったか」が分かる、シンボリックなプロジェクトを組成できるかが、事業の成否を握るという話をよく聞きます。


3つ目は、アプローチはポジティブか、ということです。

新しい取り組みを進める中で色々な取り上げ方をされると思います。中には批判的な意見もあり、そういう場面では「何かのせいで進まない」という文脈に進みがちです。

シェアエコの場合でも「規制緩和が進まない」、「既存事業者の抵抗がある」などの声が上がりますが、「進まない」「抵抗がある」側にも一定の理由はあるわけで、こういった文脈で進んでしまうと、その対立によってプロジェクトメンバーが摩耗してしまいがちです。

「新しいテクノロジーを導入してみんなでhappyになろう」というようなものに対して、敵を作るようなアプローチはなじまないのかなと感じています。


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以上、髙田氏による「事例紹介 官民連携とICT」をお届けしました。


国政におけるコレクティブ・インパクト(官民連携)とはどのような位置づけなのか、その重要性や将来への期待感なども感じられたお話でした。


髙田氏の経験や教訓は、昨今のコレクティブ・インパクトの活性化にも大きく寄与していると感じました。



文:福田晶子