「コレクティブ・インパクト」。
このキーワードを皆さん、ご存知でしょうか?
あらゆる社会問題が溢れている今、世界的にも注目されているかなりホットな手法です。
今回は、コレクティブ・インパクトについて研究を重ねている特定非営利活動法人エティックの番野智行氏をお呼びして、コレクティブ・インパクトとは何なのか?その実態と実際の効果をお話ししていただきました。
《登壇者プロフィール》
特定非営利活動法人エティック(ETIC.)
ソーシャルイノベーション事業部
プログラム・マネージャー 番野 智行
1977年京都府生まれ。東京大学法学部卒業。2000年よりNPO法人ETIC.にて社会起業家育成プログラムの立ち上げに取り組む。2005年に(株)エイコンに転職、取締役として企業や政府、教育機関等へのコンサルティング業務および同社の経営全般に従事。2010年に独立、現在のテーマは「人材・組織開発を通した事業開発」。米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブコーチ(CPCC)。
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こんにちは。エティックの番野です。
本日は改めて「コレクティブ・インパクト」について、お話させていただければと思います。まずは、「コレクティブ・インパクト」がこれまでの社会課題解決とどう違うのか?そのエッセンスを掴んでもらえればなと。
私はエティックで、2002年からNPOや社会起業家の支援をやってきました。16年間続けてきた結果、社会起業家だけではなく、地域や企業や行政・政治からでなにかできることはないか?と相談を受けることが増えています。
この先、日本の人口はどんどん減っていきます。そうなると、高齢化、税収、少子化、介護、多くの問題がでてきます。例えば、企業に勤めている方が親の介護をするようになると、精神的に疲れてしまい会社を休まなくてはいけなくなりますよね。その結果、企業が人手不足になる。こうなってしまうと、どうやってライフワークバランスをとっていくのか?を考えなくてはなりません。さらに教育格差の広がりや、ホームレスの高齢化問題といった問題も一方にはあったりします。
そんな状況だと、NPOをしていてもなかなか課題解決に繋がらないなという感覚を持ちますし、その現状を様々なリーダーたちから耳にするんです。
アメリカのとあるNPOが2001年に創業し、設立当初は22人の方に就労支援サービスを提供していました。それが2014年には12都市2000人まで拡大しています。これをビジネスのものさしで見ると、ある程度成功していると言えますよね。一方で社会的なレンズで見ると、就労支援を必要としている人はアメリカで670万人もいます。つまり、670万人中の2000人なんですね。
社会起業家がNPOを設立する理由は、社会課題をなんとかしたいという思いからです。そのため、2000人に届けられたとしても喜べないんです。大事なのは670万人を変えられたか?ということになるので。
自分の団体を大きくするのではなくて、本当に現実を変えていくにはどうすればいいのか?といろんなリーダーと共に模索した結果、行き着いたのが「コレクティブ・インパクト」という考え方です。
コレクティブ・インパクトを教科書的な定義でいうと「特定の複雑な課題を解決するための、異なるセクターの重要な当事者(actors)からなるグループによる、共通のアジェンダに対するコミットメント」となります。
このコレクティブインパクトには、「5つの条件」というものがあります。
これだと抽象的でわかりにくいと思いますので、具体的にイスラエルの事例を用いて紐解いていこうと思います。イスラエルは軍事的な背景もあって、ハイテク産業が盛んで、それが国の経済を支えています。
しかし、ハイテク企業は人手が足りないことに近年悩んでいまして、ひとつの原因として高度な数学を学ぶ高校生が激減していました。6年で3分の2も減少。じゃあそれをどうしよう?と、コレクティブ・インパクトを用いて考えていきました。
従来の発想であれば、こういうグラフを見ると、「高校の教育を改善する必要がある→そのためには政府から予算を配分してもらわないといけない→でも配分しても高校の先生大変」こんな感じで考えていくと思います。
かたや、「いやいや、数学なんてできなくても生きていけるよ」という意見もあるでしょう。「いやいや、それは企業が育てればいいんですよ」という意見もあるでしょう。
それぞれに問題意識があるというのは、とても素晴らしいことなのですが、これらを聞いてどんな結果を想像しますか?
インドのことわざで「群盲、象を評す」というのがあります。目の見えない人が象を触った時に、足を触った人は「丸太だ」といい、鼻を触った人は「蛇だ」といい、尻尾を触った人は「ロープだ」といったというお話です。
全体をちゃんと見た上で、みんなで協力してやっていこうというのがコレクティブ・インパクトの肝です。それほど社会課題は複雑。こいつが悪い!という明確な原因があればいいのですが、みんな良かれと思ってやった結果起きています。そう考えた時に、有効なアプローチが「コレクティブ・インパクト」だと考えています。
まず、数学を学ぶ高校生が減っている原因はなんなんだろう?と洗い出しました。
ー政府や行政が何をしているのか?
ー高等教育の影響もあるのではないか?
ーNPOがどんな活動しているのか?
ー企業がそういう教育をどう評価しているか?
ー親や家族、メディアがどう言ってるか?
洗い出してみると、これらが影響して、今回の課題が発生していることがわかってきました。
次に、上記の当事者が全員集まって「なんでこの課題が起こっているのか?」を話し合います。起きていること見えていないことを、色んなデータを持ち寄って、課題についての共通理解をつくり、「こういうところを目指そう!」というビジョンを共有しました。
そして実際に出てきたのが、「イスラエルの高校で提供されるSTEM教育において、高い探求・分析スキルを獲得する学生の数を2倍にする」というビジョンです。
ここのポイントとしては、
・「何をするか」の前にまずは課題を共有し、そしてビジョンを共有すること
・関係者、当事者が参加し、声を出すというプロセスを経て、一見平凡な内容でも、自分ゴトとした高いオーナーシップが育まれること
これらが出た上で、それぞれができることって何なんだろう?と話し合います。企業、NPO、、というようにそれぞれ分かれて進めていく。
その上で、相互に強化しあう取り組みを計画していきます。まずは文科省が、予算を重点的に配布。また、高校の先生がどういう風に評価されていたかというと、無事に卒業できたかどうか?だったんですね。ではなく、ちゃんと単位を取っている人を出したかどうかで評価するようにしました。
それを後押しするように、企業がボランティアで企業見学を受け入れたり、女の子がSTEMを学ぶことを応援したり、エンジニアのセカンドキャリアとして先生になることを奨励したりしました。
その上で、NPOがこれらの活動を応援できるように、自分たちの活動を見直したり、先生の同士の学びの場を用意したり、オンライン教育をやったりしました。
ここでのポイントとしては、「セクターを越えて本当に一緒にやろう」というのもあるし、「活動としては個別なんだけどもそれぞれが連携している」ものもあります。つまり、実行は別々でいいということ。また、これらって別に目新しい取り組みではないんですよね。そうある必要はないんです。
次に、共通の指標に基づく振り返りを定期的に行います。ここでのポイントは、取り組む課題が難しいことなので、完璧に計画通りいくことを求めるのではなく、やりながら考えること。また、最低でも3年以上の長期戦を前提とし、仲間を増やしていくこと。これらがとても重要です。
その結果何が起きたかというと、、、V字回復です。プレイヤーの方々が「本当に何を解かなきゃいけないのか?」を見直したうえで、葛藤を越えて一緒につくっていくことで、この結果が出たのだと思います。
一方、それってすごい大変なことなので、取り組みを支える組織の役割として、下記のようなことをサポートしていく必要があります。
1.Guide Vision and Strategy(ビジョンや戦略の形成をガイドする)
2.Support Aligned Activities(活動の足並みを揃えることを支援する)
3.Establish Shared Measurement Practices(共有された評価・計測システムの構築)
4.Cultivate Community Engagement and Ownership(コミュニティの参画を促し、オーナーシップを育む)
5.Advance Policy(政策的な変化を進める)
6.Mobilize Resources(様々な資源をコーディネートする)
サポートする組織は、「俺がコレクティブ・インパクトをやってやるんだ!」って感じではなく、プレイヤーの皆さんが主役であることを念頭に置いておかなければいけません。
まずは、一歩でも前に進めて取り組んでみてはいかがでしょうか?本日は、ありがとうございました。
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以上、番野氏による、「コレクティブ・インパクト概要〜概念や定義/世界の事例について〜」をお届けしました。
「コレクティブ・インパクト」というキーワードに馴染みがない方も、今回の説明を聞いて理解できたのではないでしょうか?
社会を変えていく力を生む「コレクティブ・インパクト」、今後この手法が大きく広がっていき社会をどんどん良くしていくに違いない、そんな期待に胸が膨らんだ時間でした。
文:長田涼