【パネラー】
澤田伸(渋谷区 副区長)
下山田淳(ボッシュ株式会社コーポレート・コミュニケーション部ゼネラルマネージャー)
横山修三(東急不動産株式会社 都市事業ユニット 渋谷プロジェクト推進本部 執行役員 本部長)
【モデレーター】
野村恭彦(株式会社フューチャーセッションズ 代表取締役社長)
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コレクティブ・インパクトの先進的な取り組みがすでに渋谷区で実施されています。
ーコレクティブ・インパクトに必要な考え方
ーコレクティブ・インパクトが地域に及ぼす影響
実践したからこそわかるこれらのことを、渋谷区で活躍される4名の方に語っていただきました。
澤田氏
本来、マーケティングという概念にはPR活動が内包されています。しかし、現在のPRはその概念が大きく変化しているものと認識すべきです。
コレクティブ・インパクトを考える時、この「Public Relations」という概念をよく理解しておく必要があります。企業だろうと、行政だろうと、NPOであろうと、「いかに平等な関係を構築し続けることができるか?」ということが基本条件となると認識しています。
では、「Public Relations」とはなにか?Webサイトをつくって、動画を流して、コミュニケーションをとるということだけではありません。僕はこれを「4つのE」として表しています。
最初のEは、「Emotion」。コミュニケーションやPublicの適切な発展のために、これが必要です。脳科学で実証されていますが、人は認知する前に「感情」が動くのです。ビジネスモデルがいかに素晴らしくても、その先にある顧客の感情の動きがわからなければダメです。そのサービスを通じて、何がどう動くか?のメッセージを先に伝えていくことが、とても重要なのです。
これがないと、次のEである「Experience」に繋がらない。「渋谷をつなげる30人」もその入り口はExperience、“場”ですよね。これが重要になります。ただ、Emotionを通ってたどり着かないと、ただの飲み会で終わることもあります。
それがあって、はじめて「Engagement」が生まれます。強い絆が生まれるのです。「渋谷をつなげる30人」やこういった共創の場から生まれる、「Empowerment」がある
澤田氏
すべてのビジネスには、かならずパートナーが必要なのです。まさにセクターを超えるということが、今の複雑な社会構造下において、最低必要条件と思います。なぜかというと、「Public」を官だけがやる時代はとうに終わっているのです。税だけで課題解決することは困難なのです。もう行政事業モデルとして不整合が起き始めているのです。
だから、コレクティブ・インパクトは、地域社会のアジェンダをしっかり整理する必要があります。アジェンダがないままで、良いか悪いかの判断することが絶対にできません。そして、このアジェンダは地域それぞれ異なる。渋谷区なら渋谷区のアジェンダがある、文京区なら文京区のアジェンダがあるのです。
このアジェンダは、それぞれのセクターの人たちが、緊密にコミュニケーションをとって策定していかなければいけません。行政だけで決めていてはダメなのです。オープンセクターでアジェンダ設定をしていく必要があります。
あとは透明性も大切。進捗管理と評価システムを、透明化していかないといけません。失敗したら失敗したと声をあげればいい。これが苦手な人多いですが、しっかり原因を考えて、PDCAを高速に回していくことが大切です。
行政は初めから100点満点を取りにいこうとするのです。そういうやりかたでは社会変化のスピードに適応していくことは困難です。従来のやり方で進めていると、事業を実行する2-3年後には社会の課題が変わっているのですから。
下山田氏
今、澤田副区長が申し上げた「4つのE」を実現する場として、ボッシュ株式会社は本社が渋谷にある立地を生かして、カフェとショールームを作らせていただきました。
社内で話し合っても、伝わらないことがたくさんあります。リアルな場を設けることによって、五感を働かせ、その場で一期一会の出会いがあり、その雰囲気の中で感じることがあると思います。
野村氏
ボッシュがそういう場をつくることによって、渋谷の働いている人や社員さんが集まって、そこで何かが生まれたりするということですか?
下山田氏
はい。それと、あの場所はボッシュのブランディングのためにつくったんです。ボッシュという会社は車業界の人は知っていても、一般の方はほとんど知りません。なので、コーヒーを飲みに来るなど、様々な理由で来てもらう。
さらに、S-SAP協定というものを結ばせてもらったことが、その場を生かして、いろんな切り口でいろんな出会いができるキッカケになっています。
野村氏
そういう意味でいうと、下山田さんの取り組みは、まさに「Public Relations」をやっているということですよね。自分の会社が儲かるのではなくて、まずは関係性を築いていく、ということを実際にやられている。
横山さんはいかがですか?
横山氏
私は「Emotion」から入りたいと思います。東急グループは今年でちょうど100年になります。100年前に、田園調布のまちづくりから入っていて、会社名は「田園都市株式会社」でした。
当時は、人口が一気に東京に集まってきたということで、人口問題がありました。そんなところから、まちづくりをスタートしています。
当然、我々だけじゃなくて、地権者や行政の方と一緒につくってきました。道路や公園や学校をつくり、関係者の方々と一緒にやったことが、今に繋がっていると思います。
まさに今は、澤田副区長のいらっしゃる渋谷区と渋谷を一緒に盛り上げています。渋谷区にまちづくりの音頭をとってもらっていて、行政、企業、NPO、地元の熱量も上がっています。こんなにみんなでスクラム組んでまちづくりを推進している地域は他にない、とても稀な街なんだと思います。
これが「Emotion」から見える渋谷で、今仕掛けてきたまちづくりが徐々に形になっています。
野村氏
Emotionをビジネスよりも上位にある状態だからこそ、社会とのつながりを生み、結果としてビジネスもその中の文脈が起きているということですね。
澤田氏
民間・行政・NPO等の各セクターがフラットな関係構築が重要です。しかしながらその実態は、〇〇部長みたいな肩書きで呼んだり、議員の人を〇〇先生と呼んだり、この悪しき習慣は一体どこから来ているのでしょうか?
しっかり名前で〇〇さんと呼ぶ。そういう関係がなかったら、「Public Relations」なんて実行できないですよ。僕は、地域の人とも愛称で呼ぶ合うこともあります。それはリレーションシップができているから。お互いに肩書で呼び合っている間は、いつまで経っても他人事ですよ。必要なのは肩書で仕事をするのではなく、役割を果たすことですからね。
うちの職員もそうですけど、対話力を磨かないと、行政はどんどん役に立たない場所になってしまう。誰とでもフラットに対話ができる能力を、身につけていく必要を痛感しています。
野村氏
「渋谷をつなげる30人」もそこは意識していますね。
澤田氏
そう。うちの職員も、「渋谷をつなげる30人」から帰ってくると、本当にいい顔になってスキルも身につけて帰ってくるから、こんなに安い投資はないと思っています。
投資というのはお金だけではなくて、時間。こんなに大きなリターンがあるなんて、とても素晴らしい活動だと思います。
野村氏
ありがとうございます。クロスセクターで、ちゃんさん付けで呼び合う関係をつくること、人材を育成することで感じられるインパクトはありますか?
横山氏
そうですね。こういう場にうちの社員がきて、いろんな刺激を受けて帰ってくるということが大事だと思います。
それと、区とのコミュニケーションが、今はとても取りやすくなっているなと感じますね。
そういう意味でも、「渋谷をつなげる30人」に参加することで、地域のために何かをやろうという意識が芽生えるのだと思います。
野村氏
これまでの活動で、ある程度土台ができてきた。それをクロスセクターでどんどん上に上げていく、一つのきっかけになればと思っています。
他の会社に1人知り合いがいるだけで、状況が変わってくるんですよ。今回でいうと、渋谷区さん、ボッシュさん、東急さんの上の方に友達がいる感じです。それを受け入れる環境が、渋谷にはあります。
いきなり会いに来られると、困る時があると思うけど、無下にはしない。どこかで繋がりたいなという、イマジネーションをぜひ皆さんにも持って欲しいと思っています。
それがお互いベネフィットがあれば、とてもいいですよね。自分がこれやりたい!というだけではなく、渋谷区さんにとってもいいんじゃないか、という形で提案していくと、どんどん繋がっていくと思います。
澤田氏
やはり、渋谷区というだけで恵まれた環境にいるということは、否定できないと思うんですよ。日本で一番スタートアップが生まれている街ですから。ただ、世界的に見るとまだまだ。世界の起業率と比較すると、圧倒的に低いのです。これは我々が反省し未来へ切り開いていかないといけない部分です。
スタートアップの若者の中には、渋谷区で何かやりたいと思っている人はたくさんいて、そういう人たちと頻繁に対話して来ました。それをきっかけに、生まれたものもあります。そのアイデアを行政だけで実施するのではなく、あらゆるところへコネクトしていく。HUBとなっているところが渋谷区の特徴かもしれませんね。
野村氏
確かに、多くのシェアリングエコノミーは、地域が中心じゃないですか。地域が中心ということは、行政だったり、場所を持っている会社だったりが、その地域でHUBになれるんですね。
東急さんに聞きたいのですが、実際会社の中ではこういった活動をどう捉えているんですか?
横山氏
そうですね。一昔前はCSRを推進していく中で、「お金にならないんじゃないか!」という意見がでる風土もありましたが、地道な活動を続けた結果、今ではどんどん理解度が深まっている感覚がありますね。
社内の共通理解を深める為、外部の人に来てもらって、その方からお話をいただくこともあります。そういった活動もしながら、理解を広げているという状況です。
今、会社内では「シブゴト」という、渋谷のことを自分ごと化して、我々セクションだけでなく、全社員で関わろうという取り組みをしています。土日にイベントが多いのですが、社員は自発的に参加していて、とてもありがたいです。やはり、大事なのは「Emotion」感情・志を持つということだなと。そうした取組みを続けることで、入居して頂いてる企業の方からも、お祭りやイベントに参加したいと声が掛かることがあるので、我々はそういった場づくり、橋渡しを続けたいと思います。
野村氏
まちづくりの活動に、どこから入っていけばいいのかわからない、ということってあると思うんですよ。その点、渋谷区はどこからでも入りやすくなっている。
外に開かれたイベントを、積極的に開催しています。ボッシュさんと繋がるなら“green drinks Shibuya”に行けばいいし、「渋谷をつなげる30人」はこれから誰でも参加可能なオープンセッションをやっていきます。
こうやってオープンな場がどんどん増えていきますが、「オープンな場に行っても何もできないんじゃないか?」と思うこともあると思います。でも、オープンな場に行くと、ぽろっと言ったアイデアが実現する可能性があるんです。
なので、コレクティブ・インパクトを推進していくためにも、ためらわずオープンな場へ積極的に参加してもらえればと思います。
――渋谷区のコレクティブ・インパクト実践者の皆さんのお話はいかがでしたでしょうか?
本記事を読み終えた皆さんは、肝となる考え方をご理解いただけたかと思います。
ぜひ、あなたの地域でもセクターを超えたフラットなつながりをつくり、社会課題を解決するための一歩を、踏み出してみてはいかがでしょうか?
文:長田涼