「事例紹介① こども宅食(文京区)」 NPO法人キッズドア渡辺由美子氏


コレクティブ・インパクトの手法を用いて子供の貧困問題の解決に挑む「こども宅食」事業。

今回はこの事業に携わるNPO法人キッズドアの渡辺由美子氏よりコレクティブインパクトの事例として取り組み方や今後の展望などを紹介していただきました。

また実践から見えたコレクティブ・インパクトのメリットやポイント、やっていく中で感じた難しさについてもお話ししていただきました。


《登壇者プロフィール》

​NPO法人キッズドア

理事長 渡辺 由美子氏

千葉大学工学部出身。2001年から2002年にかけて、家族でイギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験。準備期間を経て、2007年任意団体キッズドアを立ち上げる。2009年内閣府の認証を受け、特定非営利活動法人キッズドアを設立。子どもの貧困問題解決に向けて活動を広げている。

・「内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議」構成員

・「子供の未来応援国民運動」発起人

・厚生労働省「生活困窮者自立支援のあり方等に関する論点整理のための検討会」構成員

・全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表幹事


​――――――――――――――――――


キッズドアが「こども宅食」に参画した経緯

初めまして。子供の貧困問題に取り組んでいるキッズドアの代表をしています渡辺です。

本日はコレクティブ・インパクトの事例として、文京区で取り組んでいるこども宅食の紹介をさせていただきます。この事業の発起人は、後半のパネルトーク「日本でコレクティブ・インパクトを次々と起こしていくには?」に登壇される認定NPO法人フローレンスの駒崎さんですが、私からは事業内容などを紹介させていただきたいと思います。


まず初めに、キッズドアについて紹介いたします。

キッズドアは子供の貧困による教育格差に取り組んでいる団体で、お金が無くて塾に行けない子や勉強が苦手な子に向けた勉強会を2010年から開催しています。ボランティアの方々も参加してくださって、昨年は東京、仙台、南三陸で開催し合計60カ所2000人超の中高生に勉強を教えました。


このように子どもの貧困解消に日々挑戦する中で、貧困家庭の実態も見えてきました。


現在、日本の子供の貧困率は13.9%、およそ7人に1人が貧困です。これはOECD(経済協力開発機構)加盟34ヶ国の中で9番目に高い割合です。またひとり親家庭では50.8%の子供が貧困で、これはOECDの中で一番高いという状況です。


ここで日本における貧困について少し説明したいと思います。日本などの先進国における貧困のことを「相対的貧困」といい、所得が一定基準を下回る世帯のことをさします。

​一定基準の事を貧困線といい、最新のものでは2人世帯で177万円未満などとあります。ここで注意したいのは、この金額が貧困層の平均ではなく上位だということです。

私たちの勉強会に来たご家庭では、中高生のお子さん2人を育てる3人家族で150万という方もいらっしゃいました。


また昨年、勉強会に参加した家庭を対象に行った実態調査では「過去一年間にお金が足りなくて必要な食品が買えないことがあったか」という問いに対し、買えなかったと答えた方が34.7%もいました。


このような経験から勉強を教える事と同じぐらい家庭の支援も重要だと思っていたところ、「こども宅食を一緒にやりましょう」と声をかけていただいたのです。



​「こども宅食」事業について​

先ほどエティックの番野さんもお話しされていましたが、コレクティブ・インパクトではコンソーシアムの中で共通のアジェンダを持つことがとても重要だと感じています。こども宅食の場合は子供の貧困を支援するという目的のもと、文京区の中の収入の低いご家庭に食品を届けるということをやっています。


​まずは運営の仕方についてお話しします。


全体の企画や広報などは認定NPO法人フローレンスが行い、申込案内や寄付の受付は文京区、食品の調達やパートナー企業の開拓は一般社団法人RCF、届いた食品の振り分け等コーディネーションはキッズドア、配送は西濃運輸子会社のココネット株式会社、事業として成り立つまでの資金調達は村上財団、効果測定や評価は日本ファンドレイジング協会が行っています。


それぞれが専門性を生かして事業に携わっていますが特に自治体と一緒に取り組めたことで様々なメリットを感じました。その理由は2つあり、一つは公的な援助や手当を受給している家庭にピンポイントで案内が出来るということ、そしてもう一つはふるさと納税を活用できることです。この事業ではふるさと納税の制度を使って寄付金を集め運用資金にあてていますが、これが出来たことがとてもよかったと感じています。


作業はこのような流れで行っています。

お届けする食品類はパートナーとして登録頂いている企業・団体の方から寄付していただいていますが、非常にありがたいことに多くの方にご協力いただいています。


次にこども宅食の特徴についてお話しします。


特徴は大きくわけて4つあります。


1.自治体と民間セクターでコンソーシアムを形成

先ほどもお話ししましたが、自治体と一緒に取り組めたことは運営において大きな強みとなりました。


2.全国展開を見据えた活動

貧困で困っている家庭は日本全国にあって、子供だけでも約300万人います。そこにどうアプローチしていくのか、どうやってこのモデルを展開してくのかということも話し合っています。


3.ふるさと納税を活用

こども宅食があることで文京区にふるさと納税が集まる流れを作ることが出来ました。


4.社会的インパクト評価システムを実装

事業を広めるためはエビデンスが必要になるので、開始当初から社会的インパクトの評価を行えたのはよかったと思っています。



初年度(2017年度)の成果

初年度から多くの方に喜んでいただきました。特にふるさと納税は予想以上に集まりました

また、活発な広報活動を行ったことで各種メディアに合計85回も取り上げていただきました。これにより子供の貧困問題という社会課題の明確化や、活動の重要性を知っていただくことにつながりました。

さらに食品のお届け時に家庭の様子を伺うことで日本の貧困の課題でもある孤立・孤独というところにアプローチ出来たことも大きな成果だと思っています。


一方利用者は平均で月約3,700円の節約になりました。

その結果、今まで買えなかったものが買えたり、子供を塾に通わせられたり、家族で一緒にお出かけ出来たりと、生活改善に影響を与えることが出来ました

また、気持ちが豊かになった、社会とのつながりが感じられるようになった等お腹がいっぱいになるだけじゃないメリットも感じてもらえました


コレクティブ・インパクトと「こども宅食」

​この事業をコレクティブ・インパクトの観点から見ると、ポイントは3つあります。


●都心23区で実現

文京区は全国市町村所得ランキング7位という所得の高い地域です。そんな地域でも子供の貧困があり、こども宅食の重要性が分かったことは今後ほかの地域で展開していく上でも大きなポイントになりました。


●新公益連盟などの弱いネットワークで既につながっていた

初年度から食品を配送出来てその後も継続できているのは、事業開始前から既に顔見知りの関係で、意思決定時の信頼関係があったからだと感じています。


●常にオープン

ボランティアの方が仕分けする様子等の情報をオープンにすることで、多くの人に課題を知ってもらい共感を得られたのではないかと感じています。その結果ふるさと納税の寄付につながったのではないかと考えています。



一方、コレクティブ・インパクトをやっていて難しいと感じたこともあります。


●スタッフの負担

団体としては業務量が増えるので人員を割くことになります。また、担当になったスタッフ自身も新しい取り組みに試行錯誤しなければならないので個人の負担も大きくなります。


●文化の違う団体で協働する

意思決定の段取りやスピード感といった文化が違う団体が協働する難しさもあります。ただこの点に関しては各団体トップのコミットメントが重要だと感じています。こども宅食の場合も、文京区の区長さんがこの事業にコミットメントされたり、月に一度行う意思決定会議には各団体の社長や代表の方々も参加されています。そういう環境が課題共有や意思決定をスムーズにしたと感じています。


●メンバーの仕事が見えない

それぞれみんな違う場所で違うことをしているので、うちが一番大変なんじゃないかと思いがちです。そういったところを飲み込みながらやっていくところが大変かなとは思います。


――

以上、渡辺氏による「事例紹介 こども宅食(文京区)」をお届けしました。

実践者から見たコレクティブ・インパクトとはどのようなものなのか。その新しい視点を知ることで、より一層理解が深まったのではないでしょうか。

具体的な運営方法や、やっていて難しいと感じたことなど貴重な情報が多く、参加者にとって非常に有意義な時間となったことでしょう。

この事例共有が「コレクティブ・インパクト」のさらなるスケールアップにつながると感じました。


文:福田晶子